〇正解率の秘密(オーバーラップストーリー)×
正解率の秘密(オーバーラップストーリー)
今はむかし、昭和の初めのレトロな頃のお話です。ある所に従業員十人足らずの小さなお弁当屋さんがありました。
社長はワンマンながら、なかなかのやり手で、つぎつぎと新しい取引先を開拓して業績を伸ばし、人望もあり社員からもたいへん信頼されておりました。
この弁当屋さんは、当時、はやりはじめた野球場や遊園地などでお昼のお弁当を売っておりました。お弁当が売れるか売れないかは、その日のお昼頃に雨が降るか降らないかが、大きなポイントの一つでした。
例えば、雨が降らないと思った日曜日のお昼頃、突然のにわか雨に、多くのお弁当が売れ残り大損してしまうことが、たびたびあったのでした。
そこで、社長は、お天気係りを専任し、明日のお昼の天気を予想させておりました。まだテレビの天気予報などもない時代で、まだまだ、お天気係の経験と感がたよりの時代だったのでした。
そして、もし明日のお昼が「雨が降らない」なら、○の旗を、もし「雨」なら
×の旗を会社の掲示版に立てさせて、売れ残りが出ないように、その日の生産量を調整したのでした。このベテランのお天気係の正解率は、80%で、大いに会社に貢献しておりました。
ところが、突然、このお天気係が病気で退職してしまい、後任のお天気係りを社内から募集することとなったのでした。
応募に参加したのは二人の若者でした。そして、一ヶ月間 ”明日のお昼のお天気”を当てさせる、お天気係りの採用テストが始まったのでした。
やがて一ヵ月後、お天気係候補者の成績発表の日となるのでした。
一人は春山君といい、日頃からお天気の研究をしており、新聞の天気図を研究し、ピンポイントの天気予報の為には、過去のデーターを集め、さらに西のあの山に雲がかかったら、明日の昼は雨だとか、早朝にある湖の色が青いと、雨だとか、カエルが鳴いたら雨だとか・・・まあとにかく、いろいろなデータを集めて、地表の現象と天気の関係を研究している若者でした。
もう一人は天野君といって、春山君とは逆に、なんの研究もせず一日中ただぼうっとしていたのでした。
それではどうやって明日の天気を当てるのかというと、天野君は、板の裏と表に、”雨”と”晴れ”と書き、なにやらおまじないの呪文を言って念を入れると、大きく空に向って投げるのでした。そして、その板が、地面に落ちて、”雨”と出れば”雨”、”晴れ”と出れば”晴れ”と予想するのでした。
一ヶ月間の採用テストの結果は、春山君の正解率は70%でした。一方、天野君の正解率は、20%でした。
「すくな・・・」
新しいお天気係りが決まるその日、会社の集会場には、全社員があつまったのでした。
誰の目にも、新しいお天気係りは、正解率70%の春山君がなるだろうと思われたのでした。
♪パンパか パーんとファンファーレが鳴り、新しいお天気係りの発表となったその時、
「発表しま〜す、新しいお天気係りは・・・・正解率20%の天野君です。」
誰もが、
「そんなバカな・・・社員が信頼するあの立派な社長が、・・・どうして・・・なぜ・・・」
誰もがその耳を疑ったその時、社長が進みでるのでした。突然水を打ったような静けさが・・・・
いったい、社長はどうして、正解率の低い天野君をだいじなお天気係りに採用したのでしょうか・・・・いったい、この時社長は、なんと言ったのでしょうか・・・・????
「皆さん、皆さんは私の判断が間違っていると思っているでしょう。
なぜ、私が天野君を選んだのかその理由が分かりますか?・・・・私もたいへん迷ったのです。しかし、私は今の現実から判断したのです。それは正解率という現実です。」
皆々ただ唖然とするだけで、社長の問いに答えるものは誰もいなかったのでした。
し〜ん
「わからないよな〜」
「どうしてかな〜」
し〜ん
100%−20%=
「確かに正解率は春山君は70%、天野君は、20%で、春山君の正解率の方が高いのです。しかし、ここでよく考えてもらいたい・・・・
例えば、天野君が明日は”晴れ”と言ったら、”雨”の旗を立てたしよう、”雨”と言ったら”晴れ”の旗を立てたとしよう・・・つまり反対のことをするのです。・・・
すると正解率は100%−20%=80%となり、春山君の正解率70%を上回ることになるのです。
今この会社に必要なのは、明日のお昼の天気を当てる”正解率”の高さなのです。」
「・・・・おう・・・なるほど!」
「みんな、この話は面白かっただろう、正解率の話さ・・・・正解率の低いものでも発想を変えると正解率が高くなるという・・・数学って面白いだろう・・・!中学校の生徒にはすこしむずかしかったかな・・・」
目をキラキラさせた生徒たちの顔はいきいきとして、なるほど「数学って、おもしろい!」という顔をしているのでした。
ところが、ここで、いつもは元気の良い健史君が・・・元気のない顔で・・・
「先生、質問があります。いろいろ天気のことを研究した春山君がかわいそうです。結局この話は、努力をしても、報われない・・・努力=無駄ということではありませんか?」
「皆さんも、そう思いますか。」
ここで、みんなの意見は一転するのでした。
「健史君の言うとおりだ・・・」
「そうだ、そうだ、春山君がかわいそうだ!」の大合唱となったのでした。
「皆さん、ここでもう少し、よく考えてください。この話はここで終わりだと思いますか・・・
もともと前のお天気係りの正解率は80%だったのですよ、経験と感だけで・・・正解率、80%は夢ではないのです。春山君はもっと努力すれば、必ず正解率が80%を超える日が必ずやってくるのではないでしょうか。何年後いや数ヶ月後かは分かりませんが、それもそう遠くない近い将来ですよね。
皆さんはもう分かりましたよね。いずれ春山君がこの会社のお天気係になる日がやってくるのではないでしょうか!! 社長もそれを見越した上での結論だったのではないのでしょうか・・・社長の気持ちが分かりますか? なぜなら社長は、迷うはずの無いところで、迷ったのですから・・・・・・・・
春山君はここで、(・・・あんなやつに負けるもんか!!・・・)と思ったはずですよね!
・・・皆さんもそう思いませんか。」
「山ちゃんさ・・・俺、思うんだけど・・・ 俺もテストの正解率低いんだけど、○と思ったら×を、×と思ったら○を書けば、正解率は上がるのかな・・・・???」
「お前、そっち?・・・・・・!!!」
<話は変わって・・・>
平成21年3月24日、第2回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)決勝戦、日本(サムライジャパン)対韓国戦は、歴史的名勝負だった。
延長10回の表、3対3の同点、日本の攻撃は、2アウト1・3塁、バッターは、世界のイチロー、対するピッチャーは韓国抑えの切り札、イム・チャンヨンだった。
ここで、1塁ランナーの岩村が内野の守備位置を確認すると、するすると2塁へ難なく盗塁。ところが、走ったのが良かったのか、悪かったのか、1塁ベースが空いてしまったのだ。これは、まずい・・・・”イチロー敬遠か?”・・・・一瞬青ざめる日本サイド。
ところが、ここでも韓国バッテリーは”イチロー勝負”と強攻策に打って出る。内外角へのボール球を右に左にファウル、ファウルと4球連続のファールボール。粘りに粘った運命の8球目、イチローはイム・チャンヨンの甘く入ったスライダーをセンター前に弾き返して、決勝点となる2点タイムリーヒット。
ヤッターと叫ぶ日本サイド、呆然と立ち尽くす韓国バッテリー。
ここで、問題になったのが、なぜ、韓国バッテリーは”イチロー勝負”に出たのかということだ。翌日韓国の監督は、
「きわどいコースを攻めて、ダメだったら歩かせる作戦だったが、経験の浅いキャッチャーに作戦がうまく伝わらなかった。」
と語ったとか・・・・指揮官は、そんな言い訳言っちゃダメだよ。
実は、韓国バッテリーの”イチロー勝負”は正解だった。これまでの試合 イチローは、絶不調で打率2割台。この日イチローはすでに3安打を打っており、次にヒットを打つ確率は、逆に極めて低かった。しかも、ボール球に手を出して、ファールを繰り返していたが、日本側から見れば、
「良くボールに喰らい付いてファールにしていた。」
と見えるが、あの時、3球目をファールした時点で、2ストライク 1ボールと追い込まれたし、韓国バッテリーから見れば、
「これなら低めに球を散らせば、ボール球を引っ掛けて内野ゴロだ。」
と思わずほくそ笑んだはずだった。
しかも、次のバッターは、打率3割強、長距離バッターで絶好調の中島だった。・・・・韓国バッテリーは2人を確率という天秤にかけたのだった。
その結果、
”迷わず勝負は、イチローだった。”
つまり、結果を忘れて確率だけを考えれば当然だった。
もし、次の中島と勝負していたら・・・・???
今日の結論は、
経験の浅い韓国バッテリーの誤算は、2つあった。
一つはプライドの高いイチローのファイティンスピリットに火を付けてしまったこと。
二つ目は、”打率2割の気まぐれ度は、逆に8割だった。”・・・?(実際この日イチローは、5打数4安打で、なんとこの日の打率は8割だった。)
それとも、勝利の女神は、”算数がお嫌い”だったのか・・・???
・・・すべては、神のみぞ知る・・・・
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