●○フェルメール遠近法の秘密(おまけ)○■
オランダの夏の光は、柔らかい
靄のかかった静かな朝に
カーテンは開かれ、・・・
夕陽と共に、カーテンは閉じられた
ある雨上がりの気だるい夏の日の夕暮れ
いつものように、閉じられようとしたカーテンは、
その日に限り、躊躇の中にあった
一人の娘が、窓辺で手紙を読んでいる
それは、将来を誓い合った彼からの手紙
しかし、彼は遠く、海を越えた異国の地にあった
そこは、ジパング、遠く離れた東洋の地の果て
今、娘の心は、トキメキと揺らめきの 最中にあった
窓は、解き放たれ、心は最果ての地へ・・・
彼からの心細やかな手紙の奥には、
ちらりと”疑惑の行間”が、垣間見える
突然、風が吹き、カーテンがめくれ上がる
「想い過ごしであろう、・・・そうに違いない」
「できることなら、今すぐ、この家を飛び出したい」
堪えきれずに溢れ出る涙は、何の涙だったのか?
永遠の愛か・・・疑いの邪悪の心か・・・
絵の中の時間は、止まったまま
もはや、動くことは無いのであろうか・・・
りんごや桃は、腐り始めているのに・・・・
ある日、少女(鑑賞者)は、廊下の壁に掛けられた
この絵の前に立ち止まり、ずっと眺めていた
通りすがりに覗き見た、異空間の別世界
知らず知らずに、時は、歳月を重ねていたのだった
子どもの頃から、何度も見飽きたこの絵が・・・
いつしか、眩ゆいばかりの絵画に変わっていく
それに気づいた時が、少女から大人への変貌の時
その時、絵画と鑑賞者の境界は、取り払われる
もしかすると、実像は、絵画側であり
絵画と鑑賞者の立場は、逆転したのか・・・?
絵の中の娘は、こちらの視線に気づき、キッと睨むと
おもむろに カーテンをバサッと閉じてしまう
夕日と供に少女(鑑賞者)は、その場に釘付けとなり
やがて、忘却の彼方へ追いやられてしまう
挙げ句の果てに、鑑賞者側は、少女と大人の
二つの顔をもつ、過去と未来の遠近法の絵画となった
過去は、未知の世界であり、未来は、輝く確信の世界となった
あちら側の娘は、こちらを向いて、こう囁くのだった
「うふふ・・・この絵、面白いわね!」
いつしか、夜の静寂につつまれて・・・
※フェルメールの遠近法は、絵画の中だけの遠近法では無い。
絵画の外にまで、二重三重の遠近法が仕掛けられている。それまで、多くの画家は、地平線をより遠くに・・・とか、奥の壁や窓をより遠くに・・・描こうとしたのだが、フェルメールは、この作品で、さらに手前にカーテンを一枚描くのだった。それは、開かれようとしているのか、閉じられようとしているのか、"始りか"or"終わりか"は、鑑賞者にゆだねるのだが、つまり、奥行きの反対の手前への遠近法だったのである。このカーテンは、まるでこちら側に、別の世界が存在するか、或いは、こちら側の別の絵画に掛けられたカーテンのようにも見える。つまり、今まで、向こう側が絵画と思っていたが、実は、こちら側が、絵画だったのではないか?と、思わせるような、いわば逆転の構図となっているという・・・もう訳のわからない世界なのである。
さらに空間の遠近法に加えて、時間の遠近まで仕掛けられている。これらのフェルメールの絵画は、なんとも実に味わい深いのである。
フェルメールの作品には、”手紙”が題材の絵が多い。フェルメールと”手紙”(メール)か・・・。”手紙”(メール)は、フェルメールのお気に入りのラッキーアイテムだったのか。
”手紙”は、さまざまな想像力をかきたてられる不思議なアイテムである。
「・・・もしかするとこの女性の おなか・・・?」というように・・・。
さらに、女性を描いた、心細やかなフェルメールの絵画からは、「もしかすると、フェルメールも、女性なのではないか?」そんな疑問が自然と頭を持ち上げるのだった。
「たぶん・・・、そんな、心優しく、・・・ちょっぴりいたずら好きな人だったに違いない。」と、思うのだった。
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