○見えた明かりと、消えた明かり●




○見えた明かりと、消えた明かり●

ガキンチョファイルNo.1・・・「洋館探検事件」

 これは、本当にあったお話です。  う〜ん、あれは確か、私が小学校の4.5年生の頃のことでした・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
 私の家と小学校は、子供の足で歩いて15分ほど、 そして、校門の少し手前には当時、廃墟となった歯医者の古い洋館があったのでした。
 学校に通う度ごとに、この洋館の横を通るのですが、 田舎の見慣れた薄暗い日本家屋のたたずまいとは違い、庭には木登りにちょうど良いような大きな二股に分れたポプラの木、 ”明るい青色の壁” ”ピンクのとんがり屋根” (たぶん私の記憶)は、道路からでも良く見え、 それはそれは、摩訶不思議な魅力があったのでした。

 ところが、事業に失敗したのか単に場所を変えたのか原因は不明なのですが、 いつのころからか、この歯医者の家は、空き家となっていたのでした。
 どうも家というものは、住人がいなくなると、急速に ”ガタ” がくるらしく、 きれいだった青色の壁は、ところどころ剥がれ落ちてしみだらけ、二階の窓は破れ、屋根は崩れかけ、 あっと言う間に庭には、腰の高さほどの草がボーボーと生え、壁は ”なんとか蔓(かずら)” のツタが生い茂り、 魑魅魍魎(ちみもうりょう)も跋扈(ばっこ)するかのような、 ・・・・
 それは、見る見るうちに・・・ ”お化け屋敷化” していくのでした。
ギー・・・バッターン!



 当然、遊びの天才の子供たちの間では、すぐに格好の ”度胸試し”  の舞台となりつつあったのでした。
「今度、あの洋館に ”度胸試し” に言ってみようよ。」
 というのが、友達同士しだいに・・・そして、・・・いつもの合言葉となって行くのでした。
 そして、ついには、
「まことは、もう ”例の所”へ行ったって言ってたよ。」
 などという、話が聞こえてこようものなら、もう一日も待っていられない。 我慢もしだいに、限界となっていくのでした。
 そんな、ある7月の終わり頃、そうそう2学期の終業式の日だ。やっと明日から夏休みという日の夕暮れ時のことでした。 待ちに待った”あの日”が、ついにやって来たのでした。
 たけおや、まつじ、きよしに、ひろしや、すすむなど友達数人と、
「”例の件” 今夜決行だ! 6時半に学校の校門の前に集合だぞ!」
 という話になるのでした。それからといもの、そわそわ、どきどき、うきうき、わくわく、・・・・
「そうだ、懐中電灯持って行こう!」

ギー・・・バッターン!
「かあちゃん、ごはんまだ〜!」
「何時だと思ってるんだい。もう、腹へったのかい! ・・・あきれたね〜」
 ここは、何を言われても我慢だ! じっと耐えねばならない。 よけいなことを言って、万が一にも「行くな!」などと言われては大変だ!
 その日の夕飯は、いつもは、お変わりするのに1杯だけ、およそ30秒で、平らげると、
「ちょっと、友達と約束があるから、行ってきま〜す。・・・懐中電灯借りるね・・・・。」
「こら、どこへ行くんだい!」
と、母親のどなり声を背中で聞きながら、ここは、脱出あるのみ! 決して立ち止まっては、いけない。
それ行け、やれ行け!・・・と、くつをはくのもそこそこに、とりあえず玄関を飛び出すのでした。
 ちょっと早いけど、まあいいか。何より、こんな時1分でも遅れては、腰抜けと思われる。そうなっては、大変だ。

ギー・・・バッターン!
 あたりは、そろそろ薄暗く、雨は上がったものの、じっとりと湿った空気の中、なにやら生暖かいような息苦しいような風が、 ほんのり吹いてくるのでした。
 学校の校門に向う途中、村のはずれの 橋の手前に、立派な屋根付きの祠(ほこら)に納まった古いお地蔵様が4体ありました。 ちょうど、このお地蔵様の手前およそ 50メートルにさしかかる頃、なにやら遠くの方を、 ふらふらと青白い明かりが見えだしたのでした。 高さからして、ちょうど自転車のライトの明かりぐらいか・・・
「だれかふらふらと、自転車で遣って来るのかな・・・。」と、思って見ていると、
「あっ! あぶない!」      (更新をクリックして下さい)

 突然、明かりは、なんと田んぼの中に落ちたのでした。
 すると、又、もう一つ、向かいの田んぼの中から青白い明かりが、ぼ〜と現われると、 又、こちらに向って遣ってくるのです。こちらも歩いている為、 先ほどよりだいぶ近づいたことになり、今度は、目の前およそ 2.3メートル、
 ついに、見たのだ。見てしまったのだ。 ばっちりと。
「自転車のライトなんかじゃない! これは、人魂(ひとだま)だ! 間違いない!  やった〜! 燃えてる、燃えてる、 本当に燃えている。大きさは、にわとりの卵位。しかも、目の前 30センチ、手の届く距離だ。」
 横から、下から覗き込んでいると、やがて、又しても、するすると右側の田んぼへと落ちていくのでした。


実際のお地蔵様付近の遠景

 今思うと度胸試しの前哨戦としては、出来すぎだ! しかし、その時は、別に怖くもなく ”ヤッター!” という感じだったのでした。
 そのまま学校の校門まで行くと、小さな明かりが 4.5個。 つまり、手に手に懐中電灯を持った友達が 4.5人。 そのうち、2.3人増えて5.6人に・・・。
当然、先ほどの話を皆に、
「ついに、人魂・・見たぜ!・・・・・・」と、先ほどのあらましを皆に話すのでした。
 皆、わいわい、がやがや、
 又、よしおが、おそるおそる、
「あの〜、とうちゃんが言ってたけど・・・あの家 誰かが首吊りしたらしいよ・・・」
 さらに、くにおが衝撃的な発言を、
「兄貴がいってたけど、あの家で幽霊見たってやつが、いるんだってさ・・・」
 当然、度胸試しのシチュエーションとしては、さらに盛り上がり、
 いざ、出陣!
 誰が歌うともなく、
「♪〜チャランチャンチャンチャン ぼっ、ぼっ、ぼっくら〜は、少年探〜偵〜団 ♪〜」
ところが、洋館の門の前迄たどり着くと、怖がりのよしおと、くにおが、
「俺たち、ここでまってるよ〜。」どうも二人は、こっそり相談したらしい。
「しようがないなあ〜、置いてくぞ〜。」


ギー・・・バッターン!
 鉄の門扉は閉まっているので、ここは得意の生垣もぐり込み作戦決行。 難なくトンネルを抜け、草を掻き分け玄関へたどり着くと、 われわれより先の探検隊の仕業と思われるが、ドアの鍵はすでに壊され、フリー状態。
 廃墟となりつつある洋館の中へ入ると、ほこりだらけの受付カウンターや、壊れかけた長いすの待合室、 さすがに歯医者さんだったこともあり、例のあの機械や椅子もあり、しかも、 懐中電灯の明かりだけが頼りの真っ暗闇で、迫力満点。
 皆、無言の蟻の行列かムカデ競争状態で、おそるおそる前進するのでありました。

 突然、ガッシャーン
「おっー! 落ちたー!」の叫び声。
 板敷きの床が抜け、ひろしが足をとられたのでした。
 又、ガラスの戸棚には、大きなビンに入ったアルコール付けの歯がいっぱい。 床にも無数の歯、注射器やピンセットが、散らばっているのでした。一回り見て廻ると、だんだん慣れてきて、
「なんだ、たいしたことないや・・・。」と、ひと安心。
 やがて、あちこち ぐるぐる回りながら奥まで行き、皆で2階へ行くと、一番奥のドアを・・・

ギー・・・バッターン!
 その時、いつの間にか、なぜか私が先頭で、
「おい、押すなよー!」
 などと言いながら、懐中電灯で左から右へ部屋の中を探ったのでした。

 すると、反対側にも、ポツンと明かりが、そして、”ゆらり ゆらり・・・”
「人魂だー!」
 その日は、ちょうどお地蔵様の前で先に人魂を見ていたものだから、誰よりも反応早く。
「それ、逃げろー!」と、誰かの声。
バタバタ、ガッタン、と、どこをどう通り抜けたのか、皆は、慌てて外に飛び出したのでした。
すすむが、
「何やってんだよ〜! 人魂なんて言うから、みんな逃げ出したんじゃないか!」
 と、自分も逃げたくせに ”おかんむり” なのでした。
「部屋の中を懐中電灯で照らすと、部屋の奥にも明かりが現れたんだよ。」
「自分のライトが、鏡にでも映ったんじゃないのか?」
「そうじゃないよ! 鏡なんかないよ。ほんとだよ! それに、見えた明かりは1つだけ、鏡なら皆の分も映るはずだよ。」
「それじゃ〜、外を通った車のライトが、窓越しに見えたんじゃないのか?」
「そうじゃないよ! 車のライトよりは、ずっと小さいよ!」
 ちょうど、そこへ車のライトが・・・・
「うわ〜、まぶしい・・・ほら、車のライトだったら、こんな感じだよ・・・」

 そこで、外で待っていた、よしおとくにおに聞いてみることに。
 よしおの証言
「俺、なにげなくここで、ずっと2階を見てたんだ。 ずっと静かだったし、人が上がった気配もなく・・・車も通らず・・・明かりなんて見えなかったよ。」
 くにおの証言
「え! 2階へ行ったの? この家 2階へは、行けないよ。
・・・だって、階段が壊してあって、2階へは、行けなかったって・・・ まことが、言ってたもの!」


「えっ! それじゃー、おれたち、どこへ行ったのさー!?・・・」
 それから間もなく、この洋館は、取り壊されたのでした。
 真相は、すべて闇の中に・・・・・・。



キッィーーン、ガリガリガリ・・・キッィーーン・・・・
「ハーイ! 平○さん! もうすこし、丁寧に磨いてくださいね〜。歯間ブラシ使ってますか〜。今からよく磨かないとたいへんなことになりますよ〜。」
「ハイ・・・・ウーン・・・・・・・・・・・・・・・。」
「ハーイ! 今日はこれで、終わりにします。これですこし様子を見てくださいネー。」

(あ〜あ! だから、ここが、キライなんだよ〜〜!)


終劇
(ことわるまでもなく、ミステリー風に、多少脚色しました。)
・・・次回作は、ただ今構想中。 発表は、いつかそのうちね!


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