♪★ ひらひらが、キラキラに変わる時 ♪★





ひらひらが、キラキラに変わる時


 ある穏やかな春、雨上がりの日曜日です。幼稚園に通う、花ちゃんは、お花のいっぱい咲いた公園で、右に左にひらひら飛ぶ蝶を追いかけています。  

そこで父は、花ちゃんに、たずねました。
『なぜ、花ちゃんは、蝶が好きなのですか?』
 花ちゃんは、目を丸くしながら身振り手振りで答えました。
『赤、青、黄色にキラキラ光る羽がとても美しく、ひらひら飛ぶ姿は、とても可愛いらしいのです。蝶を追いかけているとあっという間に、夕焼けになってしまうのです。』

 父は、さらに、たずねました。
『花ちゃんは、蝶の子供の頃の姿を知っていますか?』

 花ちゃんは、ちょっと首をかしげ、不思議そうな顔をしながら答えました。
『はい、キャベツの葉を食べる青虫ではありませんか?』
 父は、身をのり出して、花ちゃんに近づくと、小さな低い声で、たずねました。
『それでは、青虫は、好きですか。』
 花ちゃんは、眉間にしわをよせて、顔を振りながら、
『青虫は、みにくい姿をしており、くねくね這う姿は、とても気味悪くて、大っ嫌いです。』

父は、からだを起こし、腕組みをしながら、にこにこしながら言いました。
『それは、変ではありませんか? みにくい青虫も美しい蝶も、元はといえば、同じ生きものなのですよ。ほんとうに蝶が好きだと、いうなら、それは、青虫も好きだ、ということではないのですか?』
『・・・・・・・・・・・・・。』
『そもそも、よく考えてごらんなさい。葉っぱの上で、むしゃむしゃと葉を食べながら、どんどん大きくなるのは、青虫なのです。
 ところが、蝶になってからは、ほとんど飲まず食わずで、もう大きくはなりません。 弱々しく、ふらふらと、やっと飛びながら、くもにねらわれ、かまきりに襲われ、時には花ちゃんに追いかけられ、びくびくしながら蝶は、あっと言う間に死んでしまうのです。
 蝶と青虫、ほんとうは、どちらが幸せな姿なのでしょうかね?
 いがいと、蝶にとって生き生きとして幸せな姿は、蝶になる前の青虫ではないのでしょうか?花ちゃんは、どう思いますか?』
『・・・・・・・・・・・・・。』

 その翌日のことでした。
 花ちゃんは、幼稚園から帰ると、小さな箱にキャベツの葉を入れ、蝶の卵から飼い始めました。やがて、卵から、青虫がかえり、元気にキャベツの葉を食べ始めました。 また、キャベツの葉がなくなると、キャベツの葉をたしたり、葉がかわかぬように霧をふいたり、よくめんどうをみました。

 それからというもの花ちゃんは、幼稚園から帰ると夕焼けになるまで、部屋に閉じこもって、あきもせずにずっと青虫を眺めていました。

 ある日、そんな姿を見て、父は言いました。
『青虫は、好きですか?』

 花ちゃんは、目を輝かせながら、元気に答えました。
『はい、青虫は、とってもかわいいの。それに、青虫は、とっても面白いの。青虫は、自分の皮を破って大きくなるのですよ。お父ちゃんは、知っていましたか?』
『ほう、そうなのですか?』
 ちょっと考えて、父は、たずねました。
『蝶と青虫、どちらが好きですか?』

 花ちゃんは、顔をくしゃくしゃにしながら答えました。
『蝶も好きだけど、青虫もかわいいわ! だって、蝶は、手の上には乗らないけれど、青虫は、ほらこのとおり、私の手の上にも乗るのですもの。』
『ギャー!』
 父は、あわてて、逃げ出してしまうのでした。
『お父ちゃんは、青虫が、嫌いだったの かしら、ウフフフ・フ。』

その時、一匹の蝶が、キラキラと、花子さんの目の前を飛び去って行くのでした。



おまけ…”断崖絶壁の一本道”に進む



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