○カッパとひょうたんとくり※
○カッパとひょうたんとくり※
ガキンチョファイルNo.3・・・「カッパ事件」
これは、子供の頃に本当にあったお話です。
私の家の裏手には川幅 約7・8メートルの江戸時代に作られた古い農業用水があって、ちょうど家から出て土手の道にぶつかる所に、石垣の崩れかけた古い水門の後があったのでした。夏になると水がうずを巻いて流れるところと、水流の緩やかな貯まり水とが同居して、いわば悪ガキたちの絶好の川遊びの場所だったのでした。
貯まり水の川岸には、葦やススキが繁茂して、夏になると古い柳の木には無数のホタルが飛び交っているような、それはそれは静かな田舎の田園風景だったのでした。一方、水がうずを巻いて流れるところは、石積みや杭に水の流れが堰き止められ、あふれた水が一気に流れ落ちる激流の道があったのでした。
その激流は、縦にも渦をまいており、不用意に入り込むと激流に足をとられてひっくり返り、川底にまで引きずりこまれるという怖いところだったのでした。しかし、たまに流されることはあっても、死亡事故にはいたらなかつたのが・・・今思うと、”不幸中の幸い”だったのでしょうか。この激流を長年、子供たちの間では、「カッパの瀬」と呼んでいたのでした。
そう「カッパの瀬」・・・それは単に縦にも渦をまく激流があっただけではなく、誰言うとなく、「カッパを見た。」「カッパの親子を見た。」「カッパが石垣に座っていた。」「カッパが石垣に座ってキュウリを食べていた。」「カッパが石垣に座って釣をしていた。・・・」というような・・・
(「カッパの瀬」か、いい響きだ! わくわくするような・・・・ね!)
又、この場所は、赤っぱら(オスの腹ビレが真っ赤な魚・・・たぶん・ウグイ)という渓流に生息する魚が住むという釣りの穴場でもあったのでした。
小学校4.5年生の頃の とある夏休み、昨夜来のどしゃぶりの雨も上がり、カラッとした日差しの中、暇つぶしに水門の石積みの土手に腰掛けて、赤っぱら目当てに釣り糸を垂れていたのでした。しかし、夜の大雨に水かさは増し、水は茶色く濁っていたのです。
「あ〜、こんな濁った川では、魚など釣れるはずもないか・・・」
と釣竿をたたもうかどうしたものかと、迷いながら、なにげなく大きなミミズの餌のついた針で川面をピチャピチャと叩いて遊んでいると、さっと葦の葉影から真っ黒いものが針に吸い寄せられるように飛びついてきたのです。
「うわあ〜、かかった、かかった! 魚がつれた。」
うきは、ぐ〜んと川底に引きずり込まれて、竿にはグングン、ビンビン、グビン・グビンと当たりがあるのです。
「たいへんだ〜、これは大物だ! なまずか、鯉か、・・・これは大きいぞ!」
さらに、ぐ〜んとカッパの瀬に糸がもっていかれたのでした。と、その刹那、プチッと糸が切れてむなしく、白い釣り糸は、ぶらりぶらりと風に揺れるのでした。と、同時に真っ黒い”ひょうたん”のようなものが水中を川岸に向って、ス〜イ、ス〜イと平泳ぎのように大きなストロークで川の流れを真横に突っ切って泳いでいくのが見えたのでした。
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「何だ、あれは・・・?」
それは、今でも両のまぶたに焼き付き、定年近くなった今でもあのワンシーンだけがストップモーションのように浮かび上がり、決して消えることはないのです。
『あの真っ黒い”ひょうたん”のようなもの』
『ス〜イ、ス〜イと大きなストローク』
「あれは・・・何だったんだろう・・・? 魚の泳ぎじゃないよ! ぜったいに・・・!」
そう、私は今でも、あれはカッパだったと信じているのです。カッパが、なまずか鯉を助けたのか、それともカッパ自身が釣り針に掛かったのか、そこのところは不明なのですが・・・、まさしくあの時、川の中をス〜イ、ス〜イと大きなストロークで泳いでいった”ひょうたん”のような真っ黒いものは ・・・ カッパですよ。別に信じてくれなくてもいいんです。私にとって、この事件は、どうでもいいことなのですから・・・。
でも、私は信じているのです。きっとあの場所には、石垣のどこかに、カッパの世界へ通じる秘密の出入り口があることを・・・。こうして目を閉じると見えるんですよ。石垣の裏の秘密の出入り口から覗くカッパのかわいい顔がね・・・・。
「カッパなんている訳無いよ。想像上の妖怪だよ。天狗や雪女みたいなものさ。」というあなたの乾いた声が聞こえてきますよ。
でも、私は見たんだ。あれは、・・・何?・・・それとも真っ黒なカエル?・・・とでも言うのかい・・・
あの激流の中を・・・?
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おわり
(ことわるまでもなく、昔話風に、多少脚色しました。そういえば、子供の頃、おかっぱ頭の私のあだ名はカッパだったな・・・・・・・・・。過ぎ去った”時のかけら”を繋ぎ合わせると 、けっこう面白いですよね。)
・・・次回作は、ただ今、構想中。 発表は、いつかそのうちね!
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